坂本宿
碓氷峠を越える直前、旅人が最後に身を整えた“峠前夜の宿”。
中山道六十九次、江戸から数えて十七番目の宿場町、坂本宿(さかもとじゅく)。
安中宿からおよそ5.6km、徒歩で一時間半ほどの道のりを経た先に、その静かな佇まいを見せます。
坂本宿は、中山道の中でもひときわ特別な意味を宿す場所です。
それは、日本三大難所の一つに数えられた「碓氷峠」を目前に控え、旅人が心身を整え、覚悟を固めた“峠前夜の宿”だからです。
宿場町に足を踏み入れると、静かながらも張り詰めた空気が肌に触れるようです。
これから挑む険しい峠道への覚悟を、自然と促されるかのような感覚。往時の旅人たちもまた、ここで草鞋を締め直し、天候を案じながら、無事に峠を越えられるよう心から祈ったに違いありません。
決して規模の大きな宿場ではありませんでしたが、坂本宿には本陣や脇本陣が整備され、多くの旅人の命綱となる“要の宿”としての役割を担っていました。
今もなお残る旧街道の緩やかな線形や歴史を刻んだ石碑は、かつて碓氷峠に挑んだ人々の決意と、その息遣いを静かに現代へと伝えています。
安中宿から坂本宿へと続く道のりは、穏やかな平地の旅路の終わりを告げます。
ここから物語は一変し、峻厳なる山々へと舞台を移すのです。
中山道を辿る旅路でこの坂本宿を訪れたなら、ぜひ一度、立ち止まり、深く息を吸い込んでみてください。
そして、遥か続く峠の先に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。坂本宿は、過去から未来へと旅人の背中をそっと押し、幾多の覚悟を峠へと送り出してきた、そんな歴史を宿す場所なのです。
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